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泉美木蘭
2019.3.13 14:29日々の出来事

安部公房「砂の女」

きのう夜中に目が覚めて眠れなくなってしまって、
人から借りっぱなしにしていた安部公房『砂の女』の映画版を
ぼやっと見はじめたら、素晴らしかった。
小説のほうは、以前読んですっかり圧倒されてしまって、
わざわざ古書店で函入のハードカバー版も買って、棚に並べて
いるくらいなんだけど。

朝目覚めると、裸の女が砂をかぶって彫像のようになって
眠っているという衝撃的なシーンが序盤にあるのだけど、
小説の中ではぼんやりと想像していた姿が、映画では、
裸体の岸田今日子によってザザーーンと再現されていて、
そこから一気に砂の世界に飲み込まれるようだった。

欲情を知らせる伏線が序盤から時折はさまれていて、
ずぶずぶと最初の性行為に耽溺していくシーン、
その後の逃亡を企てながら戦略的に女を抱くシーン、
部落の男たちにはやし立てられながら狂った状態で女を追い回し、
「なによ色気違いじゃあるまいし!」と拒否されるシーン、
どれも男と女の精神状態が流動していて、常に関係性が不安定
なのだけど、砂の中で同化していくという人間の複雑さが
たまらない。

見終わって、小説のほうをぱらぱらと読み直しながら、
ふと、
こういう小説は女には書けないかも……と思った。
明確にこういう理由で、とは説明できないし、
もちろんこれは「安部公房」の世界なんだけどね。
言うまでもないけど、「男女の優劣」の話でもなくて。

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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